立教大学経営学部 教授
経済学博士
高岡 美佳 氏

総合的にみれば、「Good Chemistry for Tomorrow−人、社会、そして地球環境のより良い関係を創るために」という三菱ケミカルホールディングス(MCHC)のグループ理念が、経営計画や事業計画に反映されていることを示した優れた報告書である。
MCHCは、2011年4月に着手した中期経営計画APTSIS 15において、従来の経営指標に加えて「MOS(Management of SUSTAINABILITY)指標」を新たに組み込んだが、今回のレポートの最大の特徴は、それが明確に読み取れる点にある。私は、昨年度の第三者意見で、「三菱ケミカルホールディングスが掲げる<KAITEKI社会の実現>を現実のものとするためには、まず、同グループが企業活動の判断基準として定めているSustainability、Health、Comfortを軸とする指標を明確にし、それと財務指標とをあわせて、事業の選択と集中を進める際の判断基準とする必要があります」と述べた。今年の報告書では、見事にそれが「MOS指標」として設定されている。従来から存在した2つの指標、経営管理軸のMBA指標と技術経営軸のMOT指標に加えて、MOS指標という第3の指標からも事業を評価するという明確な姿勢が、今回の報告書からみてとることができる。Sustainabilityを言葉だけでなく、あるいは、本業とは離れた社会貢献としてではなく、本業の評価軸としてしっかりと組み込むことは、珍しくもあり難しくもある。 その取り組みをありのままに開示している点で、MCHCの今回の報告書は優れているのである。
また、報告書では、三菱化学、三菱樹脂、田辺三菱製薬、三菱レイヨンの各種事業や社内での取り組み(労働・安全に対する取り組みや雇用の多様性等に関する取り組み)が3つの指標にもとづき体系的に評価されており、一貫性があってわかりやすい。
さらに、特集記事として、「MOS指標」誕生までの歩みが示されているのも興味深い。そこからは、経営トップのリーダーシップの重要性が読みとれる。この特集記事は、他企業にとっても大いに参考になるだろう。
グローバルカンパニーとしてのコーポレートガバナンスに関する叙述についても、一言述べておきたい。MCHCグループは、2015年までに海外売上比率を45%以上に高めることを目標に掲げる、文字通りのグローバル企業体である。同グループ常務執行役員・内部統制推進室長の津田登氏が報告書内で述べているように、海外ではリスク管理の重要性が増大する。したがって、対外的な代表機能、リスク管理及びコンプライアンス体制、内部監査体制に係わる管理監督および指導など海外での管理体制の整備・強化を目的として、MCHCグループが、2010年11月に米国に三菱ケミカルホールティングスアメリカ社、2011年1月に中国に三菱化学控股管理有限公司の全額出資子会社を設立したことは、賢明な判断だと評価できる。
一方で、要望したい点も残る。それは、「MOS指標」についても、グローバル化してほしいということである。例えば、今回の報告書では、地球環境負荷軽減への貢献として、環境負荷を2005年度比で30%削減(国内)とある。これ自体は誠実な目標であるが、海外も視野に入れた目標も掲げるべきではないか。
最後に、データ集の内容が充実したことを特筆しておきたい。具体的には、グループ各社の女性比率の数値などが書き加えられた。地道な進歩であるが、重要な意味をもつ。
新日本有限責任監査法人 パートナー
(株)新日本サステナビリティ研究所 常務取締役
公認会計士
大久保 和孝 氏

日本経済は低成長時代に入って久しいですが、その間に過去の高成長時代の価値観は大きく様変わりし、企業を取り巻くステークホルダーからの期待や要請も大きく変化しています。そうした環境下で企業が持続的に成長していくためには、企業理念を軸としたCSR活動を積極的に推進し、社会からのニーズに的確かつ柔軟に対応していくことが求められます。
三菱ケミカルホールディングス(MCHC)では、CSR活動を、経営の方向性のひとつとして「KAITEKI」の4次元経営の中の一つの軸に位置づけるとともに、中期経営計画APTSIS 15の中に取り込み、CSR活動の進捗状況を定量化・可視化することを目的とした「MOS指標」を設定する等、経営活動の中に数値目標をもって事業と一体となって取組みを実践しており、その点が高く評価できます。とくに、特集では、MOS指標の経営における位置づけ、定量化するまでの背景や考え方についてわかりやすく詳細に記述されているので、CSR活動に取組む目的を共有することができます。また、「KAITEKI」の実践例を紹介することにより、具体的に何に取組んでいるのか、何に取組むべきなのかが示され、各事業部門でのCSR活動に対する取り組みを促します。
その一方で、CSR活動をさらに企業価値に繋げていくためには、より一層、社会視点からの捉え方が求められます。MCHCの社会的責任の基本的な方針(環境・資源、健康、快適)に基づきつつ、常に、社会(ステークホルダー)目線にたってMCHCが取り組むべき社会問題とは何かを抽出し、また、それらに取組む優先順位を明確にしたうえで、CSR活動を通してどのような成果がでたのかを具体的に示すことが期待されます。そこでは、「何をしたのか」ではなく、「CSR活動として取組んだものが社会にどのように貢献したのか」を中心に示すことが重要であり、社会的責任の基本的な方針の実践を通して企業価値の向上に寄与させていくことがCSR活動です。
そして、社会問題解決は企業だけで完結できるものではありません。NPO等とのリレーションシップをもちながら、社会問題解決を図っていく枠組み作りも必要です。とくに、価値が多様化した社会では、自社だけで取り組もうとするのではなく、あらゆるステークホルダーとのリレーションシップを通じた取り組みをすることが、多様な社会の価値に適応した取り組みを可能にします。
CSR活動を、グループ理念・社会的責任の基本的な考え方を具体的に実践していく活動として位置づけ、社会目線で捉えた企業活動への取組みを通じて、結果として企業価値の向上につなげていくことが期待されます。また、全てのCSR活動をグループ理念・社会的責任の基本的な考え方に基づく一貫した取組みとすることで、従業員のモチベーションを高め、自発的な取り組みを促し、事業に落とし込んだCSR活動につながると考えます。