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FUTURE TALK / VOL.01

※本記事の内容、会社名・所属等の情報は掲載当時のものです。
なお、2022年7月1日に株式会社三菱ケミカルホールディングスは三菱ケミカルグループ株式会社に社名変更しました。

循環型社会の実現に向けて

INTRODUCTION

循環型社会の実現に向けて

株式会社ユーグレナ取締役副社長兼ヘルスケアカンパニー長、リアルテックファンド代表・永田暁彦 ×
三菱ケミカル サーキュラーエコノミー推進部・馬渡謙一郎、板東健彦 ×『WIRED』日本版 編集長・松島倫明

循環型社会の実現に向けて

株式会社ユーグレナ取締役副社長兼ヘルスケアカンパニー長、リアルテックファンド代表/ユーグレナ副社長・永田暁彦 ×
三菱ケミカル サーキュラーエコノミー推進部・馬渡謙一郎、板東健彦 ×『WIRED』日本版 編集長・松島倫明

  • Feb 1st, 2021

  • TEXT BY TAKAFUMI YANO

  • PHOTOGRAPHS BY SHINTARO YOSHIMATSU

三菱ケミカルホールディングス(MCHC)グループがめざすのは、資源の循環が最適化された循環型社会。マテリアルリサイクル・ケミカルリサイクルや、人工光合成、バイオプラスチックといったキーテクノロジーを軸に、新たなるエコシステムをどのように実装しサーキュラーエコノミーを実現していくか。日本最大の技術特化ファンド「リアルテックファンド」の代表とバイオテクノロジー企業「ユーグレナ」の副社長を務める永田暁彦氏とともに、三菱ケミカル サーキュラーエコノミー推進部のメンバー馬渡謙一郎氏、板東健彦氏、『WIRED』日本版編集長の松島倫明がディスカッションする。

循環型社会の実現に向けて

CHAPTER 01

既存のバリューチェーンが変われば世界は変革する

松島倫明(以下、松島)MCHCグループは、2030年のありたい姿を明確にした中長期経営基本戦略「KAITEKI Vision 30」で、社会課題の解決に貢献する事業群が占める売上収益の目線として30年までに構成比を7割程度へと拡大することを掲げていますが、循環型社会の実現に向けて、中核事業会社の三菱ケミカルでは、具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか。

馬渡謙一郎(以下、馬渡)三菱ケミカルでは、サーキュラーエコノミー(CE)の取り組みを強化するため、20年4月にサーキュラーエコノミー推進部が発足しました。CE関連の課題や、お客様、社会からの要請を把握しつつ、世の中のトレンドを鑑み、グループ全体を俯瞰してグローバルな視点でCEビジネスの戦略を立案し、ソリューションを幅広く探索・検討しています。実際にビジネスを推進していくのは各事業部門ですが、CE推進部では特定した課題をビジネスにつなげていくための事業開発の機能も担い、組織横断的な連携や、バリューチェーンを構成する企業や団体、アカデミアとの連携も進めています。

馬渡謙一郎|KENICHIRO MAWATARI
三菱ケミカルサーキュラーエコノミー推進部長

板東健彦(以下、板東)生分解性プラスチックやバイオエンジニアリングプラスチックなど、すでに事業化されているものもありますが、事業開発の立場としては2~3年後には「サーキュラーエコノミーといえば三菱ケミカル」と言われるような実績を残していかなければと感じています。これまで培ってきた技術基盤やナレッジ、そして、事業ごとにもつ強みを活かしてシナジーを発揮し、現在直面している地球温暖化や海洋プラスチック問題に対して化学の力でソリューションを提供していきたいと考えています。

松島どのようなソリューションに取り組まれているのでしょうか。

板東具体例のひとつが人工光合成です。太陽光と光触媒で水を水素と酸素に分解し、取り出した水素を二酸化炭素と反応させて化学品の原料をつくるもので、二酸化炭素を資源として活用する技術です。また、プラスチックの循環ではリサイクル体制の構築が極めて重要なことから、新たな試みとして、昨年、産業廃棄物を回収処理し再資源化する事業を行うリファインバース社と資本業務提携をしました。これまで素材産業とリサイクル産業はそれぞれの事業特性からチェーンが分断されがちでしたが、この協業を通じて、リサイクル領域へのアクセスが可能となり、廃棄物の適切なリサイクルや、リサイクルしやすい素材設計に活かしていく考えです。また、廃プラスチックを循環利用する方法として、油に分解して新たな化学品の原料としてリサイクルするケミカルリサイクル※1があります。その技術検討をENEOS社と協働し進めているところです。

板東健彦|TAKEHIKO BANDO
三菱ケミカル サーキュラーエコノミー推進部 事業開発グループマネジャー

永田暁彦(以下、永田)自分たちが産業参画するなかで感じているのは、基本的に先進国はバリューチェーン、サプライチェーンが完成していて、どれだけ技術開発をしてもバリューチェーンに入れない限り何のバリューも生めないということです。

バリューチェーンをもっている人たちの変革は、ある種の破壊的イノベーションにもなる可能性もあるわけですが、そこに真剣に取り組んでいない大企業は既存のサプライチェーンを守りながら新規の部分を何かしらやるという過ちを起こしがちです。その点、自らがもっている既存の領域をどのような世界に変換するかを中心にお話しされていたことに本質的な取り組みを感じました。

松島キープレイヤーを担っているという決意なり責任なりをどのように考えていますか。

馬渡CEは、既存のバリューチェーンを抜本的に変革していくことであり、企業単独で実現できるものではありません。先ほど板東から説明したプロジェクトもそうですが、CEの推進にはパートナーシップが重要だと感じています。バリューチェーンにいる企業や団体、公的機関、研究機関、新たな領域の方々を巻き込み、多角的なアプローチにより新たなビジネスモデルをつくりあげていかなければならないと考えています。

※1:ケミカルリサイクル:回収した廃プラスチックを分解してモノマー、あるいは油やガスに戻してから化学品の原料とする。一方、マテリアルリサイクルは、融かして成形し直して再利用する。

循環型社会の実現に向けて

CHAPTER 02

未来への覚悟

永田私たちユーグレナは微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)を通じて環境や健康の課題に取り組んできました。でも地球のこれからについて子どもたちと語り合うなかで、未来を生きる当事者たちが議論に参加していないのはおかしいと感じ、2年前から18歳以下のCFO(Chief Future Officer:最高未来責任者)を置く取り組みを始めました。

そのなかでいちばん大きかったことが、彼女たちの提案を受けて、ぼくたちは流通チャネルの全ペットボトル商品をやめたことです。それによってチャネルの売上を失いましたが、売上と利益を残すこと以上に会社経営におけるプライオリティーの高いものがあることを会社として決めました。そして、2020年にはすべてのミッションバリューを、「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」というフィロソフィーに書き換えました。

永田暁彦|AKIHIKO NAGATA
株式会社ユーグレナ取締役副社長兼ヘルスケアカンパニー長、リアルテックファンド代表。慶應義塾大学商学部卒。独立系プライベート・エクイティファンドに入社し、プライべート・エクイティ部門とコンサルティング部門に所属。2008年にユーグレナの取締役に就任。ユーグレナの未上場期より事業戦略、M&A、資金調達、資本提携、広報・IR、管理部門を管轄。技術を支える戦略、ファイナンス分野に精通。現在は副社長COO兼ヘルスケアカンパニー長としてユーグレナ社の食品から燃料、研究開発などすべての事業執行を務めるとともに、日本最大級の技術系VC「リアルテックファンド」の代表を務める。

松島文明評論家のジェレミー・リフキンはよく「座礁資産」という言い方をします。石油・石炭などの化石燃料を扱う巨大なインフラが、あと10年もすれば座礁資産になってしまうことがわかっているこの状況で、そういう資産を抱えている大企業にとっては、次の10年でどのようにCEに軸足を移していけるのかが課題です。

板東そうですね。私たちにとっては根本的な問題ですが、使う原料を変えていくこともひとつです。われわれの事業で言えば、これまでの化石原料をバイオ由来に変えるなど、よりサステナブルなほうにシフトしていくことも必要な判断です。

また、自分たちのビジネスモデルを超えて、バリューチェーンの新たな領域にアプローチしていくことも必要です。これまで廃棄していたものを資源として見直していく―リサイクル産業と提携したのも、その一環です。そして、新たなエコシステムの普及に向けて、世の中の理解や意識を変えていくことも重要です。例えば、マスバランス方式※2もそのひとつです。

永田ファクトとしてのソーシャルインパクトは変わらないのに、100%再生可能原料を使っているという定性的意味合いのようなものですね。

松島メッセージングがあるかもしれないですね。

板東破壊的イノベーションとはいきませんが、かなり早い段階から小さくものごとを始められるので、思い切ったことにも取り組みやすくなります。全部をいっぺんに変えられないとしても、アジャイルなアプローチで少しずつでも変えていくことが結果としてCEの実現につながるのではないかと思います。

※2:マスバランス方式:化石原料とリサイクル原料や再生可能原料を混合し品質を維持した製品を、第三者認証機関の認証によってリサイクルもしくは再生可能由来と混合比率に応じて認定するシステム。このシステムは電力エネルギーや森林認証制度、フェアトレードなどで広く知られている。

循環型社会の実現に向けて

CHAPTER 03

リニアからサーキュラーへ

松島20世紀の、ある種リニアなエコノミーをどうやってサーキュラーなものにしていくかというところについても、うかがいたいと思います。

京都大学に藤原辰史先生という哲学者がいらっしゃいます。著書『分解の哲学』のなかで、私たちが食べたものを排せつし、それが分解されていく過程を無視して、人間の営みを含む自然の循環を語ることはできないと書かれています。腐敗して発酵し、それが次の生命を養うことが根本の原理だとすると、CEはその営みをどのように社会のシステムに組み込むのか。つまり、企業はつくって供給したらそこで終わりという世界で長らくやってきましたが、使用したものをどのように分別・回収して、再利用するチェーンに組み込むのでしょうか。

板東資源を消費して廃棄する従来の一方通行型のリニアを、資源を再利用して循環させるサーキュラーにつなげられる業種は割と限られているのではないかと思っています。化学産業は、自分たちでつくった製品を使用後に回収して資源として使うのは事業機会であり、当然のことですが企業としての責任であると思います。

松島廃棄物の先を違う分野の産業に託さなければならない産業もあるけれど、もしかしたら化学産業は自分たちのエコシステムのなかで回していける仕組みをつくれるのではないかということですか。

松島倫明|MICHIAKI MATSUSHIMA
未来をプロトタイプするメディア『WIRED』の日本版編集長としてWebメディア/WIREDの実験区"SZメンバーシップ"/雑誌(最新号VOL.39特集「THE WORLD IN 2021)/WIREDカンファレンス/Sci-Fiプロトタイピング研究所/WIRED特区などを手掛ける。NHK出版学芸図書編集部編集長を経て2018年より現職。訳書に『ノヴァセン』(ジェームズ・ラヴロック)がある。東京都出身、鎌倉在住。

板東そうしていかなければならないですよね。

馬渡サーキュラーには解釈がいろいろありますが、基本はインプットをミニマムにし、廃棄物の排出もミニマムにすること。そのなかで経済の循環も回していくこと。事業活動における二酸化炭素の排出量削減は当然のことですが、二酸化炭素を資源として活用していくことも重要です。炭素循環システムの構築は、実現しなければならないチャレンジであり、総合化学企業として活躍できる領域だと思っています。

永田サーキュラーの重要なコンセプトのひとつが、新規に炭素を使っていないことです。究極的に言うと、今後、一滴も地中から石油を掘っていなければ、恐らくサーキュラーな状態なんだと思います。

ここで重要になるのが経済です。埋め立てるか焼却するかの廃棄物を、仮に「1億円で買うよ」って言ったら絶対に流れが変わります。実際に、経済合理性が変化している領域は結構あります。分別の重要性が高まれば、有機物に関してはいろんなチャレンジが起こりえる。例えば、生ごみをガス化して液体燃料にするというように。廃棄物を何に変換させるのか、そして変換する際のエネルギーソースをどうするのか。そうしたことを社会全体で考え、有価物化できれば、回収の動きが変わり、この世界は変わっていきます。需要側を変えることが本当に重要だと思います。

循環型社会の実現に向けて

CHAPTER 04

人と社会と地球のための文明論

松島経済思想家でマルキストである大阪市立大の齋藤幸平さんは、グリーンニューディールを批判しています。理由は、環境対策に経済を振り向けるのは素晴らしいが、いまの文明社会をそのまま維持するためにはどうすればいいかという観点でしか語られていないからだと。

いまのような消費形態で大量生産、大量消費の社会を、ただ単に環境にやさしいものに置き換えていけばいいだけの話なのかどうか。ぼくらは文明論として考えていかなければいけないことだと思います。

馬渡社会の変化とともに人々の価値観は変わってきています。そうしたなか、CE推進部発足からこの1年、CEに関するお客様とのコミュニケーション支援や、社内外への情報発信にも力を入れてきました。三菱ケミカルとしては、機能として便利さはこれまで通り提供していく。一方で、価値観や行動様式が変わっていくなかで、より多くの選択肢を提供することも私たちの役割です。製品にしても、長く使えるものをつくり出す視点も大事です。ライフサイクルが短くなってしまうものはリサイクルしやすい設計にしたり、環境に配慮した材料を使ったりといった解決策をもつ。複数の選択肢を用意し、価格とともに、ライフサイクル全体での環境インパクトも含め、人々が評価できるようにしていくことも必要だと考えています。

松島KAITEKIというビジョンのなかで、人と社会と地球のウェルビーイングという大きなテーマを掲げています。システムや選択肢をつくって、それをどうやって地球にとってのウェルビーイングにまでつなげていくか。いま取り組まれている事業の先にどういう社会を想定されていますか。

板東環境にやさしいことを行える社会になるような手助けができるといいいですね。例えば、いまは買いもの袋をもらわないことが「かっこいい」という声も聞こえてきています。そういう価値観や行動様式を変えられる選択肢を用意することが大事なのではないかと思いますね。

永田顧客のニーズに合わせてものを無限につくっていくことは、地中から湧き上がる石油が無限にあることを前提とした社会だと思います。CEとは回収できなければ成り立たないシステムなので、有限なんですよ。石油は埋蔵量が多過ぎて有限であることを忘れているだけで、本当は全部有限なんですけどね。

例えば、ぼくら4人が島に住んで農業をやり、米が12カ月分ではなくて10カ月分しか収穫できなかったとします。当然、1カ月の食べる量は収穫量の12分の10にしようと決めますよね。そのときに「10カ月分しかつくれないよ」と言うのは農家の役割になります。みなさんはカーボンリサイクルの領域における、ある種の農家なのだと思います。

そういう人たちが世界に発するメッセージは、とても重要なことだと感じています。サーキュラーという有限な畑の中で採れる量を増やしていくことはマンバリューの領域です。

そこは絶対に続けられると思いますが、同時に畑の面積が決まっていることも伝えていくことが重要になります。大量生産、大量消費の世界から、有限なものを大切に使うからこそ希少性(価格)がどう上げられるのかという論点も含めて、経済的アプローチも変わっていくべきではないでしょうか。それには全体の産業に対するメッセージと、それを指揮するトップの覚悟が必要になるのだと思います。

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