三菱ケミカルグループ株式会社

KAITEKI Solution Center
植物工場~環境・消費者・生産者が笑顔になる持続可能な農業~

植物工場
~環境・消費者・生産者が笑顔になる持続可能な農業~

Feb. 1, 2023 / TEXT BY YUYA OYAMADA / ILLUSTRAIONS BY SHINJI HAMANA
※ Mar. 2, 2022 の記事を更新しました。

  • 私たちの暮らしを支える農業は、さまざまな課題に直面しています。働き手の高齢化や後継者不足に加え、近年は温暖化や集中豪雨などの異常気象も重なり、持続可能なアグリ(農業)ビジネスの実現が求められています。
  • 三菱ケミカルグループ(MCGグループ)が展開している「植物工場」は、そのような農業が抱える深刻な課題の解決策として期待されています。
植物工場イメージ写真

植物工場とは、植物の生育に必要な環境を人工的に制御することで、天候に左右されず農作物を安定生産する施設。そのため、食料の安定供給に資するだけでなく、農業に不向きな地域や環境でも農作物の栽培を可能にするほか、水や窒素などの使用量削減を通じて環境に配慮したアグリビジネスの確立を実現します。

こうした植物工場の特徴は、食糧危機の解決や気候変動対策をめざす「SDGs(持続可能な開発目標)」達成に向けた取り組みとしても注目を集めています。

植物工場は光源により、「太陽光利用型」と「完全人工光利用型」に大別されます。では、MCGグループが手掛ける植物工場には、どういったものがあるのでしょうか。順番に説明していきましょう。

1つ目は、太陽光利用型の葉菜類養液栽培システムです。「ナッパーランド」という名称で展開しているこの栽培システムは、農業ハウスを活用した植物工場であり、水と養液(液体肥料)による水耕栽培です。ホウレンソウやリーフレタス、ルッコラなど、さまざまな葉物野菜を栽培できます。

そもそも「ナッパーランド」は夏場にホウレンソウを安定して生産できるようにと開発されました。一般的な露地栽培では、農作物の生産量は季節に左右されます。例えばホウレンソウなら、日本における旬は11月~2月という寒い時期。夏場は北海道のような涼しい地域以外では生産が難しいため、市場への供給量が減り、高価になってしまいます。

しかし、ホウレンソウに対するニーズは年間を通してあります。つまり、品薄で高価になる時期に安定して供給することができるようになれば、農家の収入の安定化に貢献することができる。あくまで農家の経営改善をめざして開発されたものであり、「高度な技術が必要な高品質野菜を、誰でも簡単にできるように」が「ナッパーランド」のコンセプトなのです。

  • 「ナッパーランド」では、緩やかな傾斜の栽培床に少量ずつ培養液を流し、その中で野菜を栽培します。野菜が水分や栄養をムダなく効率的に吸収できるほか、露地栽培と比較してたった3%の水使用量で済み、環境負荷も軽減できます。
  • また、培養液を循環させる栽培ブロックを小分けにして管理することで、病気の発生や害虫の繁殖を抑制。農薬を使用しない安心安全な野菜の提供を実現します。しかも、太陽光を利用することで、完全人工光型の植物工場と比べ、初期投資や運営コストが少ないといったメリットもあります。
ナッパーランドの栽培床(断面図)

とはいえ、高品質な野菜を作るには、このような葉菜類養液栽培システム以外にも非常に重要なポイントがあります。先にご紹介した“苗半作”という言葉の通り、品質の悪い苗から品質の良い野菜を作ることは難しく、苗の品質が農作物の生産性に大きく影響するからです。

しかし、品質の良い苗を作るには、農家に高度な技術と多大な労力が要求されます。この課題を解決したのが人工光を利用した完全密閉空間での苗生産システム「苗テラス」です。温度管理、光照射、潅水などの作業を自動で行うことで、苗の品質と生産量の安定化を実現しています。

MCGグループの植物工場では、人工光を利用した「苗テラス」と、独自開発した「ナッパーランド」のような太陽光利用型の養液栽培システムを組み合せることで、天候に左右されることなく1年を通じて高品質な農作物を計画的かつ大量に生産できるようにしています。また、温度や空調など農作物の生育環境をコンピュータ制御により自動的に管理することで、難しい技術を必要とせず、誰でも簡単に野菜栽培が可能となりました。

この仕組みは日本だけでなく、中国など海外にも広がっています。

そして今、植物工場はさらなる進化を遂げようとしています。加工・業務用野菜の生産に向けて開発された次世代の完全人工光型植物工場の登場です。

背景には少子高齢化、単身化による中食・外食需要の拡大があります。食の外部化が進んだ結果、近年では野菜需要全体の6割が加工・業務用となっており、この増え続ける需要に応えることが農家の経営安定化のもうひとつのカギを握っているといえます。

しかし、加工・業務用野菜は「定時・定量・定品質・定価」の4定が徹底して求められます。自然災害によって毎年のように発生している不作は大敵であり、対策がいっそう必要とされています。

そこでMCGグループでは、これまで高コストにより普及が難しかった完全人工光型の植物工場の開発に着手。これまで蓄積してきた水耕栽培のノウハウを活かし、実用的な新型“水光”栽培システム「AN(Agriculture Next)」を実現しました。

まず、太陽光利用型の植物工場と同じく、農業ハウスを利用することで設備の建設費を削減。高強度LEDを照明に使うことで、消費電力量を抑えながら野菜がのびのびと成長できる栽培環境を確保しています。

また、加工・業務用野菜では常に一定の品質が要求されるため、従来、露地野菜の場合、虫による食害部分などを除くと、カット野菜として使われるのは平均で原料の6~7割程度でした。また、昨今の集中豪雨等の影響により供給が追いつかなくなると価格も高騰します。そこで新たに開発した植物工場では、野菜の大部分を商品として使用できる品質(歩留まり90%以上)の野菜を安定生産し、需要に安定的に対応可能としました。

新型水光栽培システムでは、高品質を保つため、野菜の成長点に効率的に風を送る空調システムを新規開発。野菜の品質を低下させるチップバーン(栄養不足による変色)を抑制します。

加えて、野菜の成長に合わせて野菜の間隔を広げる作業には自動スペーシング機能を導入。栽培エリア内を自動化・無人化し、作業効率や衛生性を大幅に向上させました。従来型の植物工場の1/3の人員で運用可能となったほか、人の出入りを限定することで、害虫などの異物混入リスクも低減させています。

こうした特徴をそなえた新型の植物工場は、MCGグループの従来の完全人工光型植物工場で生産した野菜と比べ、生産原価50%減を実現。品質も高く、リーフレタスによる比較では従来に比べ1株あたり3倍以上の収穫重量を記録しています。単に効率的であるだけでなく、みずみずしくて美味しい野菜を育てることができるのです。

この新型植物工場は市場への提供が始まったばかり。今後はより生産コストを抑える仕組みを整えていくことで、本格的な普及をめざしています。

この記事によって植物工場という言葉を初めて聞いた人は、特に「工場」という部分に、人工的で、無機質な印象を受けたかもしれません。しかし、MCGグループがめざすのは“三方良し”の植物工場システムです。

環境負荷を抑えることでサステナビリティの実現に貢献し、無農薬栽培で人々の健康にも貢献する。収益が安定することで農家の経営状況や人手不足も改善する。地球環境、消費者、生産者の三方が笑顔になる。それがMCGグループの理想とする植物工場の姿であり、持続可能な農業を実現するということなのです。

三菱ケミカルアクア・ソリューションズ「ナッパーランド・ネット」

トップページへ戻る